小人のために踊る夜

 あたしは今日もミホちゃんの彼氏とセックスした。シングルベッドに敷かれたシーツはふたりの汗で冷たく湿っている。あたしと同じ大学に通うミホちゃんはすこし夢見がちすぎる傾向こそあるが素直で可愛らしく同性から見ても魅力的な女の子だ。そんなミホちゃんと交際しているにもかかわらず彼はあたしとの関係を一年以上も続けている。理由を彼に尋ねると返ってくるのは「身体の相性が良いから」「ミホとはできないことができるから」といった答えだ。隣に転がる彼の身体はまだ熱を帯びており呼吸のたびに薄い胸板が大きく上下する。部屋の壁には近頃ミホちゃんが好んで聞いているバンドのポスターが貼られている。あたしは彼の耳たぶのピアスに前歯をコツンとぶつけながらそっと囁いた。あたしたちのことミホちゃんにバレちゃったよ、と。次の瞬間上半身を起こしてこちらを見た彼の顔からは血の気が引いていた。それを見たあたしは満足して、嘘だよ、と笑った。

 終電に間に合うようミホちゃんの彼氏の家をあとにしたあたしは駅へと続く暗く静かな遊歩道を歩いた。すると暗がりや物陰からはいつものように何人もの小人たちわらわらと出現しあたしの足元を駆け回り始める。小人たちはかわるがわるあたしの肩に跳び乗っては「気づけば彼との関係も一年続いたねえ」「ちゃんとした彼氏彼女の関係は二ヶ月だって保ったことないのに」「セフレだったらそれなりに続くんだな」などとあたしと彼との関係について好き勝手で無責任な感想を語っていく。「意外と彼のほうが君に執着しているよね」「君と彼とのやり取りを見るのはそろそろ飽きてきたよ」「でもミホちゃんにバレたふりをしたのはちょっと面白かった」「いっそ本当にバレちゃえば良いのに」小人たちが発するひとつひとつの言葉にあたしは耳を傾けながら歩くが返事や反応はいっさい返さない。やがて明るい駅前の広場にたどり着くと小人たちの姿や声はすっかり消えている。
 
 小人たちについてあたしが知っていることはそれほど多くない。あたしがひとりで居る時にだけ現れる不可思議な集団。それ以上のことはほとんど分からない。だが小人たちはあたしのことをなんでも知っている。あたしが過去にどんな恋愛やセックスを経験してきたのか、過去にどんな人物に好かれどんな人物に嫌われてきたのか、なにに憧れなにを目指して努力しなにを諦めたのか、それらのことはひとつ残らず小人たちに知られている。そんな小人たちがあたしに投げかける言葉はいつも軽々しい。あたしがトラブルに見舞われればそれを面白がり穏やかな日々を過ごせば退屈だと文句を言う。困難を乗り越えれば感動したとお手軽に喜んでくれることもあるが的はずれなアドバイスを押し付けられたり謗中傷に近い発言をぶつけられたりしたことも数え切れないほどだ。たぶん小人たちはあたしの人生をさながらリアリティ番組のような安っぽい娯楽として消費しているのだろう。
 
 とはいえあたしはこの小人たちのことを憎からず思っている。それどころかなにかを決断する際、小人たちがより面白がるのはどちらの選択肢だろう? というのを判断基準に用いることさえある。たとえば過去の恋人とつきあったり別れたりしたとき、進学先に今の大学を選んだとき、親しくしていた友人との縁を断ったとき、ミホちゃんの彼氏とはじめてセックスしたときだってそうだ。そうした方が小人たちにとって楽しいだろう、続きが気になるだろう、野次り甲斐があるだろう、刺激的だろうという方を選び続けてきた。あたしは自分の生活をエンタテイメントとして小人たちに提供してもいいと思っている。なぜならこんなにもあたしに注目してくれる存在は他にいないからだ。あたしは親からも友人からも男たちからもここまでの視線を浴びた記憶はない。誰にも注目されることなくただ呼吸だけを続けるぐらいならば集める視線が好機のまなざしであっても別に構わない。

 今日もミホちゃんの彼氏とセックスをしてから終電に間にあうよう彼の家を後にし駅前にたどり着いたあたしは鞄の中からIC乗車券を取り出し改札を通ろうとしたところでふと足を止めた。改札の向こう側からこちらに歩いてくるミホちゃんの姿を発見したからだ。ヒールの音を鳴らしながら向かってくるミホちゃんはふだん大学で見かけるのとは違った化粧をしていた。改札から出てきたミホちゃんはあたしの目の前で立ち止り「ここで何してるの?」と小首を傾げながら尋ねる。あたしたちのことミホちゃんにバレちゃったよ、と先ほど冗談で言った時の彼の表情があたしの脳裏をよぎる。彼の家には十数分前まであたしがいた形跡がそのままの形で残っているはずだ。駅構内のスピーカーからは間もなく終電がやってくる旨のアナウンスが流れる。その音に混じって小人たちの嘲笑や囁きが聞こえたような気がした。背筋がぞくぞくした。あたしは思わず笑顔を浮かべてしまう。

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