掌編小説

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天使を拾いました

誰かに必要とされていなければ不安で仕方なかった。他人から欲しがられるためであればどんなことでもした。だから私は昨日の晩も見知らぬベッドで眠った。
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忘れてしまう町にて

私は泣かなかったが、彼が死んでしまったのは私のせいだと思った。きっと私がここに来るより前のことをすべて忘れたせいだ。
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寒い場所からあなたは来たのだという

娘はこの砂漠を出て都会で暮らしたいと答えた。若い時間をこの砂漠の中で終えてしまうのは辛いと、消え入るような力のない声で言った。
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わたしの硝子は砕けない

自分の家族が口も利きたくないぐらい酷い家族なら良かったのにとわたしは時々思う。
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アオとムラサキ

それから後もたくさんの男の子が私のもとを訪れましたが、私の身体は今も変わらず動かぬままなのです。
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この森でいちばん愚かな少女の話

信じたいものを彼女は信じるのだ。本当のことではなく、本当だったら良いなということばかりをを、彼女は信じるのだ。
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ぱぴ子について

ぱぴ子は代わりの女の子だ。他でもないあなたの代わりなのだ。居なくなってしまった、手の届かない遠くへ行ってしまった、あなたの代わりなのだ。
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ラブリー・ラブリー・チョコレイト

チョコレイトの『幸せ』は他のひとを幸せにすることが出来るが彼自身を幸せにすることは決してできなかった。
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赤絨毯のホテルにて

「あのみすぼらしい男は、たった一度の貴重な人生を掃除などすることに費やし、果たして満足なのかね」と、男は掃除夫の後姿を指差しながら嗤った。
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白い白い金属

私の身体にピアスの穴が開いたり、刺青の数が増えたりしていく過程を見て、父はときどき私に、痛くないのか?とだけ尋ねた。
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ミルクティーの海

この場所は楽園だからこの場所を出てミルクティーの海の向こう側なんか行っても、そこには悪いものしかないんだ。そう言う彼は悲しそうな表情をしていた。
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猫と自販機

不感症なのにセックスをするのは、そうすればわたしのことを嫌いにならずに居てくれるし、わたしに対して優しくしてくれるからです。
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愚者のホスピス

本物だって死ぬまで信じてましたね。ぜんぶ偽物なのに。幸せそうな顔で死んでいますね。
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好きが飽和する

次の煙草にウサギは火を点ける。月は好きなんです。でも帰ったら嫌いになってしまうような気がするんですよそういうことってたまにありませんか?
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すこし違った遊びをしていた彼女は

好きじゃない男のひととセックスしている時間というのは考え事をするのに結構向いている。
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