掌編小説

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彼岸花の国

彼女の母親は、焼かれた夫を弔い終えた後、まだ幼かった彼女ひとりを小舟に乗せて、河を隔てたこちら側に逃した。
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夏のジェード

パパにとってのわたしの可能性は二通りしかなかった。期待通りの大切な娘。期待外れの不要な娘。そのどちらかだった。
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けむりの夜

この男はわたしにとって何より有害だというのに。いつの間にか離れることが出来なくなっていた。ちょうど煙草をやめられない身体になっていたのと同じように。
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ずっと眠っていたかった

私の彼は長い眠りについた。あれからずいぶん時間が過ぎてしまった。彼の容姿は当時と比べて少しも変わらない。
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風船が降る町

風船が降りはじめる以前からこの町は行き詰っていたのだ。それを忘れてはいけない。こうなる前から未来なんかなかったじゃないか。
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絶望的に私は幸せだ

誰かに抱かれて眠った記憶というのが、私の中にはないのだ。人肌の温かさに包まれて眠ることが、私にとって唯一の憧れだった。
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フツウの女の子

あの子は私の欲しいものを全部持っている。だけど私は彼女を妬めない。背中が見えないほど遠い相手には、嫉妬することだって出来やしないのだ。
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バニラはシロクマだった

私はきっと、彼から大切にされることはないだろうと思う。忘れられずにいるなら、大切にされなくても私は構わない。
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「あの日のあたしは泣いていた」彼女は笑ってそう言った

ママの言いつけを破ったことはなかった。大人は子どもより正しいことを言うと、疑いもせずに信じてきたからだ。
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身体を売る機械

ネリマは一度も地球の土を踏んだことがない。地球はとても良い場所だと、仲間のあいだで噂されている。
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愛おしいから骨さえ残らない

わたしのママは貝なのだ。だからわたしもそのうち貝になる。娘のわたしもいつかは貝になる。
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私が役に立たない日の出来事

今日。本当は彼と会えるはずだった。だけど会えなかった。起床してすぐに生理がやって来た。
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モデルマシーン

その時には、わたしと同じ工場で、わたしと同じ姿形に作られたマネキンがこの店を訪れ、わたしの代りを務める。まるで何事も起こらなかったみたいに。
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虚しさの木

普通に生きてるだけなのに、どうしてこんなに虚しくなるのだろう。わたしは何度も考えた。考えるたびに虚しさは募って、新たな洞が生まれた。
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魔法の小箱のこと

木で出来た小箱がある。私はそれを手のひらに乗せてみんなに見せびらかした。最初に開けたひとの願いをひとつ叶えてくれる魔法の箱だと言った。
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