ぜんぶがぜんぶ私はそんなふうだ

 学校の帰り電車の中でベビーカーを見かけた。ベビーカーの中には赤ん坊が入っていた。

 赤ん坊の顔を見ていたら私は、甘いものを食べたいような気がしたので、改札を出てからコンビニでシュークリームを買った。

 だけど一口食べたらあまり美味しくなくって、ああ私は、甘いものなんかはじめから食べたくなかったんだということに気付いた。

 甘いものが食べたいような気がしたけど、気がしただけでそれは勘違いだったということに食べてから気付いた。

 本屋さんで買い物をしていたら母親に絵本をねだる子どもの姿を見かけた。子どもの顔は母親に良く似ていた。

 子どもの姿を見ていたら私は、万引きをしたいような気がしたので、彼が欲しがっていた絵本を手に取り自分の鞄の中にこっそりと隠した。

 だけどそのまま本屋さんを出た途端に嫌な気持ちになり、ああ私は、万引きなんてはじめからしたくなかったのだということに気付いた。

 万引きしたいような気がしたけど、気がしただけでそれは勘違いだったということに万引きしてから気付いた。

 クラスの子たちがひとつの机の周りに集まり喋っているのを見た。彼女たちは恋に関する話なんかをしていた。

 彼女たちの姿を見ていたら私は、セックスをしたいような気がしたので、インターネットで男を呼び出しお金を貰ってセックスをしてみた。

 だけどラブホテルを出るとすぐに強い吐き気がして、ああ私は、セックスなんかはじめからしたくなかったのだということに気付いた。

 セックスしたいような気がしたけど、気がしただけでそれは勘違いだったということにセックスしてから気付いた。

 夜の公園を通りがかるとあなたの姿を見た。あなたはよその学校の制服を着た女の子と一緒にぶらんこを漕いでた。

 あなたの姿を見ていたら私は、腕を切りたいような気がしたので、家に帰ってからカッターナイフで自分の腕に幾つか傷を引いた。
 
 だけど傷口から滲む血を見るとなんだか涙が出てきて、ああ私は、腕を切るなんてはじめからしたくなかったのだということに気付いた。

 腕を切りたいような気がしたけど、気がしただけでそれは勘違いだったということに腕を切ってから気付いた。

 ぜんぶがぜんぶ私はそんなふうだ。
 

 

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