掌編小説

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ほどけて溶ける。クラゲのように

おれはさあ、クラゲみたいに死にたいと思うよ。水のように溶けて何も残らないというのが、おれが死んだことに誰も気づかないというのが良いんだ。
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海の呪いと緑のしるし

海は世界に通じているというが、わたしにとっての海は、ただただわたしを束縛するものであり、世界を狭める存在でしかないのだ。
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かつて自傷をしていた

自傷の跡。十五年以上も前のものだ。今はもちろん痛くも痒くもないがこれ以上目立たなくなることはおそらくないだろう。
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ヒトと機械の違いについて

ニンゲンと機械の最大の違いは目的を与えられず生まれてくることです。ニンゲンは目的を与えられず生まれてくるから自分が何をして生きるべきなのかがしばしば分からなくなります。機械がそういう悩みを持つことはほとんどありません。
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わたしの右目は治らない

あなたはお父さんと距離を取ったほうが良いと思います。もちろん家族を大切にするのは素敵なことだけどそれにしたってあなたの人生が犠牲になりすぎてる。
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それはあなたのものだから

地元のやつがする話はその場にいない人間の噂話ばかりだ。誰と誰が結婚したとか。誰々が家を建てたとか病気になったとか。借金を作ったとか。そういう話題をいくつも聞かされた。そういう話題のうちのひとつとして彼女が死んだことをおれは知らされた。
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まるで宇宙の果てのよう

同棲を始めて四年が経つけど、わたしたちのコミュニケーションはあまり噛み合いがよくない。『ただいま』を言っても返事は返ってこないし、それまでの会話と関係ないことをとつぜん喋りだす。
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顔のない世界で

あたしには、ひとの顔が見えない。その他のものは正しく見えるのに、まるで映り込んだ一般人の顔にぼかしをいれるテレビ番組みたいに、ひとの顔だけが見えない。
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あなたに麻薬をおしえてあげる

かつてのぼくの生活はたとえるならば沼の底だった。毎日まじめに仕事をしていたのにある日とつぜん身体が上手くうごかなくなり働けなくなった。
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金魚の帰り道

神さまに愛されたひとは死んだあと神さまのもとに行くことができます。それは神さまが人間によって作り出されたからです。ところがわたしたち金魚は神さまではなく人間たちが品種改良によって作った魚です。ですから飼い主の人間に愛された金魚は死んでから何年か経つとオバケになりその人間のもとに行くことができるのです。
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金魚鉢の外へ

数年あるいは数ヶ月ほどで終わりを迎える愛と、最期のときまで添い遂げるような愛と、普通の愛は果たしてどちらだろう、両者の数をくらべたときにたくさんあるのは果たしてどちらだろう。
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おそまつさまのわたし

さきほど街で出会ったばかりの名前も知らない若い男の子はベッドの上で裸になったわたしの身体をおそるおそる触った。きっと実際におそれているのだろう。
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昨日のおれを描く

おれは面白い映画を観れば面白かったと言ったし酷い映画を見たら酷かった言った。だが従兄はすこし違った。どんなに酷い映画であっても従兄はその作品の良かったところについて話をした。
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たのしいお料理教室カレー編

わたしは愚かだろうか。幸せな恋を知っているひとの目にはきっと愚かに映ることだろう。
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雨留める

「この子がこんなに泣きやまないのはわたしがちゃんと愛せてないからかな?」