特別編4.いつかあなたが読んでくれますように


 夏の半ばに妻の姙娠が分かった。「赤ちゃんがいる気がする」と妻が言うので調べてみたら本当にいることが分かった。女性というのは初めての姙娠でも「妊娠している感じ」があんなに正確に分かるものなのだろうか。それとも妻の勘が特別に鋭いのだろうか。

「女性はパートナーに姙娠を告げた時のリアクションを一生覚えている」という話はけっこう耳にする。それでいうと僕はあまり気の利いた返しをすることができなかった。「おお……!」とか「すごいねえ……!」なんて言うばかりで、おそらく間抜けな顔をしていただろうと思う。

 すこし前から子どもについては「自然に任そう」という方針にしていたので僕自身も心の準備はしていたつもりだけれど、いざ現実になってみると急に現れた強い光に目が眩んでしまうように気持ちの焦点をなかなか合わせられず、ポカンとしてしまった。

 けれどそのあと寝室で予定日の計算をしたりだとか、プレママ・プレパパ用のアプリを入れたりなんかしながら話をしているうちに、ようやく気落ちが事実に追いついてきて、6年以上隣を歩いていた妻が突然2歩も3歩も前に進んでいくような感覚を覚えた。そうしたらもう、置いていかれにようにしなきゃいけないという思いだとか、嬉しいやら愛おしいやらわけの分からない気持ちがブワッと溢れてきて、ニヤニヤしながら少し泣いてしまった。

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