特別編37.またひと区切り、あともう少し


桜のつぼみが膨らみ始めている。
 
妻はいよいよ正産期に入った。お腹の中にいる赤ちゃんはいつ外に出ても大丈夫な状態に育っている。ふたりともここまで本当によく頑張ってくれたと思う。あとは生まれてくるだけ。もうひと踏ん張りだね。
 
それまで親ではなかったものが親になるというのは、恐らく人生全体の中でも、上から数えて三番目以内には間違いなく入るような、それはもう大きな変化なのだろうと思う。にもかかわらずこの時期の僕と妻は至極穏やかに毎日を過ごしている。
 
もちろん妻には妻にしか分からない辛さもあるだろうし、「僕には分からない辛さがある」という理解は僕もしているのだけれども、それを差し引いても、とても穏やかな。
 
これから間違いなくやって来ることがわかっている出産やその後の生活。いつの間にか世界中に蔓延してしまったウイルスによって大変なことになっている世界のこと。不確定な要素を挙げればキリがないのだけど、そんな中でも毎日、家で仕事をして、一緒に散歩をして、三食を共にして同じベッドで寝る。一時間以上離れて過ごすことはほとんどないような日々の中で、変化の時へ確かに近づいていく。
 
ただこの時、どこまでも近い距離で静かに過ごしていた僕と妻との関係性というのは、妊娠が分かる前と果たして同じだろうか? そう考えてみると、やっぱり違ったものなのだろうと思う。そしてこの変化というのは、やっぱり赤ちゃんによってもたらされたものなのだとも。
 
拝啓娘さん。あなたが生まれた病院から退院して、いちばん最初にこの家にくるときに着る、白くて可愛い服を買いました。いま世の中はずいぶん大変だけど、あなたが最初に目にするであろう幾つかの場所は綺麗にしておきますね。

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