ゼロ歳記01.育児が始まる日

 娘が生まれてから退院するまでの期間は、連日病院にパソコンを持って行って、仕事をしながら面会時間が許す限り妻と娘のすぐ近くで過ごした。新型コロナの影響があり面会できるのは僕だけだったのだけど、個室だったこともあって、家族だけでリラックスして過ごせたのはむしろ良かったかもしれない。

 生まれたての娘はというと、まだこの世界に慣れていない様子で、起きている時は自分の手の動きに驚くような素振りも見せていた。抱っこをしてあげると妻や僕の顔をじっと見つめてくれることもあった。顔を覚えようとしてくれていたのだろうか。

「妻と娘が退院してきたらいよいよ育児が始まる……」と出産当日の夜ぐらいまでは思っていたのだけど、いざ翌日に病院を訪れると、その認識がずいぶん甘かったということに気付かされる。 

 前日にあの壮絶な出産を終えたばかりの妻は既に娘のオムツを替えているし、ミルクをあげていた。その姿を見て、「退院後どころではない。既に育児は始まっているじゃないか」と認識を新たにする。

 自分もやらねばならない。とはいえ新生児のお世話なんかやったことはない。出産前の両親学級で人形を使った練習はしてきたけど、実際に触れるとなるとやっぱり全然別物のように感じる。柔らかいし動くし、けっこう力もある。なにより万にひとつも傷つけるわけにはいかない。もしものことを考えると、目の前のお世話を怖いとさえ思う。

 でも経験がないのは妻も同じなはずだ。どうして当たり前のように出来ているのだろう? 疑問に思って妻を観察してみる。するとなんてことはなかった。妻だっておっかなびっくりなのだ。おっかなびっくりながら、怖い気持ちを横に置きつつやっているのだった。
 
 ここで置いていかれるわけにはいかないと自分に言い聞かせる。実際に自分もオムツを替えてみる。最初は下手くそもいいとだったと思う。でもこれを繰り返しながら慣れていかなければいけない。親になったのだから。

 その晩はひとりで家に帰ってから、YouTubeでおむつ替えの動画をひたすら眺めて過ごした。


 

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