声の墓標

声の墓標

声の墓標-最終話

もう瞼を持ち上げる体力さえ残っていないのか、目を瞑ったままでおじいさんは喋った。「人の生き死には、何も意味がない。意味はないのだけど、良い人生、意味のある人生だったと、思いたがっている自分もいる。私の人生には。意味があっただろうか」
声の墓標

声の墓標-第4話

男がアルバイトを始めたのは、わたしの家に住まいはじめてから三ヶ月あまりが過ぎた頃だった。それまで働く素振りなんか全然なかったのに。理由を尋ねると「犬を買うのに金が必要だから、稼がなければいけない」という答えが帰ってきた。
声の墓標

声の墓標-第3話

不審な男が居座り続けている。仕事をしている様子がなく、食費や光熱費なんかも払わないくせに、態度ばかりが妙に偉そうだ。ひとつ屋根の下で六十日以上も生活を共にしたが、わたしは未だにこの男の長所をひとつも見つけられない。
声の墓標

声の墓標-第2話

男は自分が桃太郎であると信じている。ネットに入り浸り、電波塔に住む鬼を退治しに行く仲間を募っている。けれどあの電波塔が鬼ヶ島でないことなど誰もが知っているから、彼の求める犬や猿や雉は決して現れない。
声の墓標

声の墓標-第1話

おじいさんが変わってしまったのは、わたしがちょうど思春期に差し掛かった頃だ。その視線にはもう、かつてのような優しさは見受けられなかった。わたしは徐々におじいさんのことを怖いと思い始めた。
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