大魔王様

「大魔王様、ねぇ大魔王様」 

 ん? 

「ん?じゃないよ。大魔王様。勇者たち、もうそこまで来てるよ。なにしてんの」 

 ああ、ええとね、DVD見てる 

「だめじゃん。急ぎなよ。勇者来るんだから、早く準備しなきゃ。ああ、僕ももうそろそろ行かなきゃなんだけどさ。大魔王様も急ぎなって」 

 ん、ちょっと待って。今いいとこなんだよ 

「なんのDVDみてんの」 

 ええとね、[ヒーローの冒険]。ほらそろそろ、敵のボスが出てくるとこ。ああ、ほら、今出てきた 

「あー、ほんとだ。笑ってる。ヒーローのこと、見下しながら、笑ってる。わっはっは。だって」 

 ね。笑ってんでしょ?わっはっはって 

「わっはっは。って」 

 あのさ。なんで敵のボス、笑ってんのかな? 

「んー、アレじゃないの。やっと俺の見せ場だー。とか。これからこの無力なヒーローどもをどうやっていたぶってやろうか!とか、そういうこと考えてたら楽しくって笑っちゃうんじゃないの」 

 ん、そうなのかな。けどさ、やっぱ状況的には、敵のボスかなり追い込まれてるよね。仲間も手下もみんなヒーローに殺されちゃって、あとはもう自分ひとりしかいないワケじゃん。こんな状況で笑ってんの。なんでなんだろうな。

「どうなんだろう。大魔王様は、勇者たちがここまで来たらやっぱり、わっはっはって笑ったりする?」 

 わかんないや。お前はどう思う? 

「僕もわかんないけど。でも僕はあんまり、大魔王様がわっはっはとか笑うの、見たくないって思う。だから頑張って勇者に勝とうって戦うけど、でもやっぱり、僕もやられちゃう気がする。そしたら大魔王様は、わっはっはって笑って、勇者と戦うんだろうなって、なんとなくそう思う」 

 お前が勇者たちにやられたら悲しいよ 

「それでも大魔王様は、きっと笑うんだろうって思う。きっとね、だから大魔王様なんだよ。ああ、勇者が僕の部屋に近づく。僕ももう行かなきゃ」 

 お前が勝ったら、わっはっはって笑わないで済むかな 

「大魔王様がそんなこと考えたらだめだって。ほら、DVDとかテレビとか、ちゃんと片付けとかなきゃ。大魔王の部屋にDVDとか散らかってたら格好悪いから。それじゃあ、行ってきます」 

 ああ、うん 

 それじゃあ 

 いってらっしゃい 

 行っちゃった、な 

 ああ、 

 勇者たちと、何か話してる 

 戦い始めた 

 あー 

 勇者、強いな。やっぱ 

 お前、がんばれ 

 あ、ああ 

 ああ 

 やられ、ちゃった 

 笑う練習、しようっと 

 わっはっは 

 はっはは 

 はは 

 は 

 。

 

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