あの猫にまた会いたい

今は携帯電話の連絡先をひとりひとりが持っているので気の合うひと同士は次にまた会うことがすごく簡単です。SNSが現れてからは直接連絡を取り合わなくたって相手の近況がだいたい分かります。「その場限りの縁」であったり「一期一会の関係」みたいなものはずいぶん減りました。

僕の家の近所には野良猫が多く暮らしているのだけど中でもいっそう親しい猫がいました。カフェラテという名前で僕は呼んでいました。僕がナワバリの傍を通ると決まって尻尾を立て「ニャー」と鳴きながら近づいてくる子でした。

お互いの言葉は通じないのだけど、妻と喧嘩をした時も、仕事がしんどい時も、人間の事情なんて構うことなくモフモフしてくれていたので、とてもありがたかった。写真も多く撮りました。カメラを向けてもすぐに近づいてくるので、ひとしきり構ってあげてからでないとなかなか撮らせて貰えませんでした。

そのカフェラテを最近見かけなくなってしまった。ナワバリを移ったんでしょうか。ひと懐こいのでどこかの家に貰われたでしょうか。元気の良い子だし今もどこかで楽しく過ごしていると信じたい。親しかったけど、人間ではないからSNSはしていないし、連絡先も知らないので、もしかするともう会えないかもしれない。

最初に出会った日から二年以上、寒い季節を除けば毎日のように顔をあわせていたから、少なくとも僕がこの土地を離れるまではずっといるものだと思っていたのだけれど、そんなことはなかった、かもしれない。一期一会とはこういうものなのか。

……そんなふうに書いたものの、やっぱり明日になったら僕は駅やコンビニに行く時に少し遠回りをして、「今日はいるかな」と、ナワバリだった場所を歩いてしまうんでしょう。

 

「辺川があなたのお話を聞いて小説を書きますよ」という活動をしています。お申込み・お問い合わせは上記バナーより。些細なことでも気軽にお尋ねください。
タイトルとURLをコピーしました