ゼロ歳記03.ポイズン

 娘が生まれてから二週間が経過した頃。いわずもがな彼女のペースで家族の暮らしは進む。妻の体調が悪かろうが僕が仕事中だろうが知ったことではない。赤ちゃんとはそういうものなのだから。あまりの多忙さにちょっとした原稿の修正ぐらいなら娘を抱きながら足の指でパソコンをいじってやったこともあった。

 新型コロナの影響もあり親族からの助けは限定的(それでもずいぶん助かったのだけど)。基本的には妻と僕ふたりで未経験の育児を何とかやっていく。

 経験者が傍にいないことの大変さは実際の手間暇もそうだけどそれ以上に精神面に響いた。娘に起きる些細な変化について、どの程度の起きた時に心配すべきなのか、逆にどの程度まで心配しないべきなのか、その匙加減が全然わからなかった。ミルクの量がなかなか増えないが大丈夫か? 体重の増えが良くないんじゃないか? いつも右ばかり向いているが向き癖ついてない? 縦抱っこが上手いことできない……。いま振り返れば「あんなに悩むことなかったな」というような事柄に対してでも必要以上に神経をすり減らしていたように思う。
 
 心身ともに疲弊していたこの時期は娘の可愛さだけを原動力にしていたような気がする。娘は「なぜか赤ちゃんが泣き止む」とSNSをで話題になっていた反町隆史の「POISON」を聴いてよく眠った。ぐずっている時でもスマートフォンでこの曲を流せばスッと落ち着いた。まだ喋れない新生児としては「言いたいことも言えないこんな世の中じゃ」という歌詞に共感するところがあったのだろうか。

 未だに語り草なのはくしゃみをしようとして失敗するシーン。当時の娘はくしゃみをするのが下手で「はっ、はっ……、ふぇ~ん」と気の抜けるような声を出すことがたびたびあった。すごくコミカルで愛らしかったのだけど残念ながらタイミングよくビデオを起動できなかったので映像には残せず。

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