声の墓標 声の墓標-最終話 もう瞼を持ち上げる体力さえ残っていないのか、目を瞑ったままでおじいさんは喋った。「人の生き死には、何も意味がない。意味はないのだけど、良い人生、意味のある人生だったと、思いたがっている自分もいる。私の人生には。意味があっただろうか」 2018.09.22 声の墓標
声の墓標 声の墓標-第4話 男がアルバイトを始めたのは、わたしの家に住まいはじめてから三ヶ月あまりが過ぎた頃だった。それまで働く素振りなんか全然なかったのに。理由を尋ねると「犬を買うのに金が必要だから、稼がなければいけない」という答えが帰ってきた。 2018.09.21 声の墓標
声の墓標 声の墓標-第3話 不審な男が居座り続けている。仕事をしている様子がなく、食費や光熱費なんかも払わないくせに、態度ばかりが妙に偉そうだ。ひとつ屋根の下で六十日以上も生活を共にしたが、わたしは未だにこの男の長所をひとつも見つけられない。 2018.09.20 声の墓標
声の墓標 声の墓標-第2話 男は自分が桃太郎であると信じている。ネットに入り浸り、電波塔に住む鬼を退治しに行く仲間を募っている。けれどあの電波塔が鬼ヶ島でないことなど誰もが知っているから、彼の求める犬や猿や雉は決して現れない。 2018.09.19 声の墓標
声の墓標 声の墓標-第1話 おじいさんが変わってしまったのは、わたしがちょうど思春期に差し掛かった頃だ。その視線にはもう、かつてのような優しさは見受けられなかった。わたしは徐々におじいさんのことを怖いと思い始めた。 2018.09.18 声の墓標掌編小説