星を拾う夏

 この街は空が近いので夜になると流れ星がたくさん落ちてくる。だから今だって星のかけらがぶつかり石造りの天井がコツンコツンと鳴る。

 雨音よりも耳に馴染んだその音を訊きながら僕はベッドの上でタオルケットにくるまり、明日から始まる四十日間の夏休みをどうやって過ごそうかと考えを巡らす。セミやトンボを捕まえに行こうか。それとも釣りをしようか。自転車に乗って隣の町まで行ってみるのも良い。あれもこれもと思い浮かべるうちにやがて眠りに落ちた。

 あくる朝に家の裏の雑木林をひとりで歩いていると、僕はひとりの女の子と出会った。年齢は僕と同じぐらいだろうか。見知らぬ顔だったし、おおよそ野山を駆け回るには相応しくない小綺麗な洋服を着ていたので、よそ者だろうということはひと目で察しがついた。何をしているの? と僕が質問すると、

「星のかけらを拾い集めているの」

 と彼女は静かに答え、微笑みを浮かべた。その歯並びが綺麗だったので、僕は思わず見とれた。

 彼女はこの街の外れに住んでいるお婆さんの孫娘で、二週間ほど前からこの街に滞在を続けているらしい。彼女はずっと都会で暮らしていたのだけど、父親と母親が離婚の離婚が決まったので、その手続がひと通り済むまでという約束で、お婆さんのもとに預けられたという。

「だけど都会に戻ったあと、お父さんとお母さん、どちらと暮らすかは、まだ決まっていないの」

 と、彼女はやはり静かに微笑みながら、僕に説明した。


 
 彼女が預けられているお婆さんの家に、僕は招かれた。お婆さんは枯れ木のようなひとで、突然やって来た僕の姿を見ても、何も喋らなかった。

 家のニ階の小さな部屋に行くと、彼女はさきほど拾い集めていた星のかけらをリュックから取り出し、部屋にあった透明なガラス瓶の中にそれを詰め始めた。そしてガラス瓶の中が、星のかけらでいっぱいに満たされると、彼女はマッチをこすり、小さ炎をビンの中に落とした。 

 すると星のかけらは白く輝き出し、音も立てずに煌々を燃え始めた。彼女はその様子をしばらく眺めてから、そっと両目を閉じ、

「お父さんとお母さんが仲直りしますように」

 と、両方の手を合わせながら言った。

「学校の図書館で読んだことがあるの」

 ビン詰に詰められた星のかけらがすっかり燃え尽き、炎が消えてから、彼女は僕に言った。

「この街で拾った星のかけらを燃やして、燃え尽きるまでの間に願いごとをすると、それは叶うんだって」

 そう説明する彼女の表情は嬉しそうだった。

 とはいえ僕は生まれてからずっとこの街にいるけど、そんな話はほんの一度も聞いたことがない。都会の人は変なことを言うなあと、つい首をかしげた。

 次の日から、僕らは雑木林で毎朝まちあわせた。林の中や川沿い、湿地の中をふたりで一緒に歩き、星のかけらを拾い集めては、それを彼女のおばあさんの家に持っていってビンの中で燃やした。星を燃やしながら、彼女は毎回、自分の両親が和解するよう願った。

 一方で僕は、夏休みの宿題がなくなりますようにとか、新学期の席替えで良い席になれますようにとか、そんなつまらないことばかりを燃える星に願った。

 この街には毎晩たくさんの流れ星が降るから、星のかけらなんて、秋に見かける栗の実よりもたくさん落ちている。そんなありふれたものをいくら燃やしたって、ひとの願いごとは叶いやしないだろう。だから僕らが、出会ってから毎日続けている願いごとも、実際には全然、効果はないと思う。それも分かっている。

 分かっているのだけど、

 それでも彼女の願いだけは、なんとか叶ってくれれば良いなと思いながら、僕は毎日、彼女と一緒に星のかけらを集めた。

 それは夏休みが半分ほど過ぎたある日のことだった。彼女はいつもと同じように待ち合わせ場所にやってきたのだけど、その目元は真っ赤で、酷く腫れていた。

「あした都会に帰ることになったの」

 明らかに泣いたあとと分かる目を細めて、彼女は笑顔の形を作り、僕にそういった。

「都会に帰ったらお母さんとふたりで暮らすことに決まった。お父さんにはもう会えないと思う」

 僕らはその日もいつもと同じように、雑木林の中を歩いて、星のかけらを集めた。集めた星のかけらは、これもいつものように、彼女のお婆さんの家でビンに詰めて、火をつけて燃やした。

 ビンの中で静かに、まばゆい光を放ちなながら燃える星の様子を、僕らは、ただ黙って、燃え尽きるまで眺めた。もう願いごとを口にすることはなかった。それがいつもと違った。

「今までありがとうね」

 火が消えると、これまででいちばん穏やか声で、彼女は呟いた。それを聴くと僕の中に、どうしょうもなく悔しい気持ちがどっと湧き出てきた。こらえきれなくなり、僕は口走った。きみの願いごとは叶わなかったじゃないか。こんなに毎日願い続けたのに。叶わなかったじゃないか。

 すると彼女は最初に出会った時と同じように、そっと微笑んだ。目の腫れももうほとんど気にならない。相変わらず歯並びがとても美しかった。

「それでも。ありがとう」

 彼女が都会に帰ってしまった後も、僕は朝が来るたびに雑木林を歩き、星のかけらを拾った。自分の部屋でそれをビンに詰め、ひとりで火を付けて燃やした。きっと叶わない願いごとを、夏が終わるまで毎日、毎日、続けた。

 たとえ叶わなくても、願い続けることに意味がありますようにと、祈りを込めて燃やした。

お読みくださりありがとうございます。
このお話はcalico candleの”星あつめキャンドル”のために書きました。
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