フクロウと仲良くなる方法

 塾講師の仕事を終えてから自宅マンションに帰り着きエントランスにある郵便受けの中を確かめると大学時代の友人から結婚式の招待状が届いていた。結婚することはSNS上で見て既に知っていたから招待状を見ても特に驚かなかった。なんでも交際を初めてからわずか二ヶ月で婚約にまで漕ぎつけたのだという。
 帰宅するとぼくはコンビニで買ってきたナポリタンをたいらげてからフローリングの上に散乱した本とかカメラとかDVDなどを軽く片付けた。六畳一間のワンルームなのであまり時間をかけなくてもそれなりに綺麗になる。タンスの上に飾ってあるのはぼくと恋人がふたりで並んで映っている写真だ。確か付き合いたての頃に撮った写真なので六年以上は前のものだと思う。彼女とはもう三ヶ月ぐらい顔を合わせていない。最後にメッセージのやり取りをしたのだって一週間は前だ。

 中学生の頃。同学年にひとりフクロウがいた。フクロウはあまり人付き合いの良い男ではなかった。休み時間にはひとりで本を読んでいるか窓の外をじっと眺めていることが多かったし、授業はいつも教室のいちばん後ろで受けた。いじめられたり仲間はずれにされていたわけではないけど、仲の良い友だちがいるという話を聞いたこともなかった。文化祭の出し物についてホームルームで話し合った時も、みんなから少し距離を置いた場所でぽつんと佇んでいた。

 先日。学生時代にアルバイトをしていた書店の店長と飲みに行った。当事ぼくと恋人のあいだを取り持ってくれたひとだ。「お前たち今も付き合っているの?」とグラスを片手に店長が尋ねるので、ぼくは交際がまだ続いていることや、三ヶ月以上会っていないこと、それくらいの期間会わずにいることが自分たちにとっては特に珍しくないということなどを事実の通り話した。すると店長は「それって付き合ってるっていう?」と心配そうに顔をしかめていた。その店長はといえば、ぼくらが彼のもとで働いていた時期に結婚をしており、来年には三人目の子どもが生まれる予定なのだという。

 中学三年の秋のことだった。ぼくはいちどだけフクロウとふたりで出掛けた。声を掛けてきたのは彼の方だった。そう何度も話したことのある間柄ではなかったから、どうして誘ってくれたの? と声を掛けられた時に思わず訊いてしまった。それに対して彼は「同級生を遊びに誘うのは別に普通でしょう?」と大きな目を細めながら答えていた。
 出掛けた先は学校の裏山だった。彼はカメラを持ってきており、山に住んでいる野鳥たちの姿をみつけては写真に収めていった。撮った写真を見せてもらったが、いつも目にしている裏山にもかかわらず、映っていたのは全然知らない鳥たちばかりだった。裏山をひとしきり歩き回った後は、駅前の屋台で購入した一パックのたこ焼きを公園のベンチで半分ずつ食べた。フクロウは「たこ焼きを友だちと分け合って食べるのは初めてだよ」と普段あまり見せない笑顔を浮かべていた。 
「ボクはフクロウだから」と、その日の帰り道に彼はぼくに話した。「みんなよりも耳がとても良く聞こえる。ずいぶん遠くで葉っぱが少し擦れただけの音でもはっきり聞こえるんだ。それで教室でみんなが話している時には、いつもちょっぴり離れた場所に居るようにしている。あんまり近くにいると、声が大きく聞こえすぎてしまって、あっというまに参ってしまうんだ。だから距離を置いて、そっけなくしているように見えるかもしれないけど、みんなの話はちゃんと聞いてるんだよ」

 よく晴れた週末の朝。ぼくは駅へと向かった。途中で郵便局に立ち寄り「出席」にマルをした結婚式の招待状を投函した。駅の構内には結婚相談所や転職サービスやぼくが勤めている学習塾などの広告が幾つも貼られていた。それらの広告を眺めながら、ぼくはフクロウといちどだけ出掛けた、あの日のことをなぜだか思い出す。
 駅に辿り着いてから数分待っていると、改札の奥から彼女が姿を見せた。すると彼女は、実際には三ヶ月以上も会っていなかったというのに、まるで最後に会ってから十数時間しか経っていないかのような調子で「おはよう」と言いながら右手を差し出した。
 ぼくも同じように「おはよう」と返して、差し出された手を握った。




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