ゼロ歳記02.ようこそ我が家へ

 産後の入院期間を経て妻と娘が家に帰ってきた。この直後の数日は本当に激動だった。

 何より娘が死にやしないかと気が気ではなかった。娘はゲップが下手くそだったので飲んだミルクを吐いてしまうことが結構多くあった。もしも寝ているあいだに吐いたものを喉につまらせたら……。当時は四六時中そんな心配をしていた。

 もちろん泣いていれば寝かしつけるのだけど眠っていれば眠っているで「ちゃんと息をしているだろうか」と三分ごとに確認してしまう。そのたびに「生きてる……、良かった、本当に良かった、ありがとう、可愛い、ああ可愛い……」と泣いてしまいそうな心持ちにもなる。情緒が追いつかない。

 産後の母親は睡眠不足に苦しむケースも多いと聞いていたので、なんとか負担を軽減したいと思い、「妻は午後九時から午前三時まで眠る。僕は午前三時から午前九時まで眠る。こうすることでお互いに六時間ずつ睡眠を確保できる」なんて作戦を立ててみたりもした。実際にはふたり揃って三時間毎の授乳をこなしていた。

 寝不足が祟ってこの時期は仕事のミスも少し増えた。事情を知っているとはいえ優しく対応してくれた当時のお客さんには本当に感謝しかない。

 僕と妻がてんやわんやしているあいだにも娘は少しずつ世界に慣れていく。天気のいい日に窓際へ連れて行くと興味深そうに外に目をやっていた。抱っこしながら声をかけるとこちらをじっと見てくる。寝不足の日々が続いても娘の一挙手一投足に僕らは笑ってしまう。

 生後一週間を迎えるとお七夜をささやかに祝った。このとき「お七夜の由来って知ってる?」と妻に訊ねられた。なんでも昔は生後七日も生きられなかった子どもが今よりずっと多かったのだという。だから七日経った時点で改めてお祝いするという風習なんだとか。

 本当に大変な一週間、ふたりで娘を生かすことができたねと、その晩は僕も妻もそれはめちゃめちゃに泣き腫らしてしまった。


 

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