砂糖の流砂

 眠るための薬をはじめて飲んだ夜の感覚は今でも覚えている。あの時のあたしは身体の左側を下にして横たわっていたから、どくんどくんと脈打つ自分の心臓の音が、ベッドのスプリングに響いて、やたらとはっきり聞こえた。血の巡る速度が早くなったと感じた。そして気が付いたら意識が落ちていた。そんな眠り方だった。夢は見たかもしれないが、あまり覚えていない。見ていたとしてもすごく酷い夢だ。ああ、はじめの夜に限らず、薬を飲んで眠ると、その夜は大抵酷い夢を見るのだ。ずっしりと鉛のように重たい、酷くて悪い夢だ。目を覚まして、身体を起こすと、喉が渇いていた。喉が渇くのは薬の副作用だ。身体が重く怠く、とても疲れていた。はじめて薬を飲んだ日の翌朝には、そういう目覚めにうすら怖さを覚えた。しかし一方で、眠れるのだと思った。薬を飲み始める以前は、たとえ一晩中、目を瞑っていても、眠ったのか眠っていないのか、曖昧なままで朝を向けえていたほど、睡眠が下手なあたしが、薬を飲みさえすれば、多少の不自由こそあれ、眠れるのだと思った。眠れるということはとても大切だった。悪夢や喉の渇きなどより、ずっと重要だった。だからわたしは毎晩、薬を飲んで眠るようになった。はじめにあった違和感も、数ヶ月間が過ぎれば、ああ、自分の眠りはこういうものなのだなと、あたしは受け入れた。重たさと怠さを伴う朝の疲れとか、酷い悪夢に対してさえ、慣れて、折り合いをつけた。だから、だから、だから。

 あんたが隣で寝息を立てていた。あんたの寝顔がとても可愛いので、すぐに眠って悪夢に飛び込むのは、少し勿体ないと、私は考えた。薬を飲むのは、もう少しだけあんたの寝顔を眺めてからにしよう。するといつの間にか、あたしの意識は緩やかにぼやけ始めた。まるで甘く柔らかい白砂に沈んでいくかのよう、ゆっくり。

 そうして目覚めた朝、気持ちよさそうに寝てたよと、あんたは私に言った。

 








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