すこし違った遊びをしていた彼女は

 私は若いから身体を差し出せば誰かに需要がある。画素数が低い携帯電話の内側カメラを使い実物の私よりも何割か可愛く撮れた顔写真をインターネットに載せでもしておいたら私を欲しがる男のひとは尚のこと後を絶たない。そうして知り合った男のひとと予備校の帰りに駅で待ち合わせをしてホテルだったりマンションだったりアパートだったりの一室に赴くとベッドの上で私は裸に剥かれる。男のひとに抱かれているとき私はいつもクラスメートの佐藤さんについて思いを巡らせる。好きじゃない男のひととセックスをしている時間というのは考え事をするのにけっこう向いている。

 私が通っている高校は中高一貫教育を売りにした私立の女子校だ。制服は光をはじくような真っ白。厳しい校則によって化粧は禁止されているし髪型や持ち物に関してもあまり自由度がないからだいたいみんなが同じ感じに見える。私自身も、もちろん同じ感じに見えるみんなのうちのひとりだ。けど佐藤さんは私たちとは違う。背が高くひんやりと整った顔立ちをしている佐藤さんは普通にしていても有無をいわさず周囲の注目を集めた。社交的なわけではなく、かといって静かなわけでもない。むしろ努めてみんなの中に溶け込もうとしているようにせ見えたが、そんな佐藤さんの意思とは関係なく否応なしに彼女は特別だった。特別な彼女を私はいつでも羨ましいと思った。

 教室の後ろのロッカーの上にはめだかの水槽が置かれている。めだかはどれも同じ見た目をしていて全部で十五匹居たのだけど、最近いつの間にか一匹減っていて十四匹になった。居なくなった一匹のめだかはたぶん死んだのだろう。死骸がどこに行ったのかは分からない。他のめだかが食べてしまったのかもしれないが私に知るすべはない。私が恐ろしく思ったのは、十五匹居ためだかが一匹減ったところでクラスの中の誰ひとりとしてそのことを話題にしなかったということだ。たぶんみんな、めだかがいなくなったことなんて気付いていないのだろう。

 今日も予備校の帰りに男のひとと待ち合わせをして近くのホテルに出かける。私を抱いて息を荒げる男の顔を眺めているとまるで自分が特別になったような気分に浸って安心することができる。私は別に男のことを好きでも何ともないけど、相手が誰だろうと他人の特別でいることはとても尊いことだし、逆に誰の特別でもないというのは凄く怖いことだ。誰の特別でもないというのは、例えば居なくなっても誰にも気づかれないあの十五匹目の可哀想なめだかのようになってしまうことだ。同世代の女の子しかいない学校の中では私なんてその他大勢の中のひとりに過ぎないけど、画素数が低い携帯電話の内側カメラを使い実物の私よりも何割か可愛く撮れた顔写をインターネットに載せでもしておいたら私を欲しがる男のひとは尚のこと後を絶たず私は特別でいられる。身体を差し出すのは大したことではない。そりゃあ正しい方法ではないかもしれないけど誰の特別でもなくなって忘れられてしまうよりはずっとましだと思う。

 ある日の昼休みに一階の廊下を歩いていると窓の外に佐藤さんがひとりで居るのを見つけた。ひと気のない校舎裏の陽だまりで佐藤さんがひとりで居て、屈んでいるのを見つけた。私が窓を開けると佐藤さんはこちらにすぐに気づいた。何をしてるの?と私は彼女に尋ねた。
「お墓参り」
 と、彼女は私に答えた。
「教室のめだかが一匹死んでたから、ここに埋めたの。そのお墓参り」
 と、小さな声続けた。

 

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