ラブホテルから外に出るとあたしは煌びやかなネオン街をひとりで歩きながらアイツに電話をした。つい今しがた知らない男とエッチしてたんだけどと云うとアイツはとても怒った。セックスなんて別に全然たいしたことじゃないのにと笑うと、いつか絶対後悔するからもう二度とそんなことはするなとアイツはあたしに強い口調で諭した。約束はできないけど考えておくねと答えてあたしは終話ボタンを押し、携帯電話をコートの右のポケットに仕舞った。左のポケットの中には先ほど手に入れた一万円札が三枚入ってるので週末になったら何か可愛い洋服か化粧品でも買に行こうかと思った。あたしは駅へと向かった。
翌日の寒く晴れた昼に学校の屋上であたしはあのひとと話した。知らない男とエッチしたって昨晩アイツに云ったらめちゃめちゃ怒られたのとあたしはあのひとにぼやいた。するとあのひとは口元に手を当てて苦笑いしながら、彼は確かにすごい心配性だけれど、その事情なら彼でなくても心配すると思うし私も心配だわ。と品の良い口調で云った。あのひとがひとつ何かを喋るたびにふわりと白い息が冷たい空へと登った。喋るあのひとの横顔はすらりと整って素晴らしく文句の付けようもなく美しい造形をしていた。そしてあのひとは今日もきっとアイツと手を繋いで下校するのだろうと私は想像した。仕方がないなと思った。
週末を待たずしてあたしはまた別の知らない男とラブホテルに入った。知らない男に着ている洋服を一枚づつ脱がされていく間にあたしは、これが終わったらまたアイツに電話を掛けながら帰ろうとそのことばかりをぼんやり考えていた。セックスなんて本当に全然たいしたことではかった。それよりも次はアイツがどんなふうにあたしを叱ってくれるか、楽しみに思い浮かべながら知らないどうでもいい男の身体に抱かれた。