あんたの身体には破片が刺さっていた。銀色の金属の破片で数えられないほど幾つも刺さっていた。なのであんたの身体に触るといつもひんやりとしていた。破片はあんたの舌にも刺さっていたのでキスをするとカチカチとお互いの前歯に当たった。金属と唾液が混じりあうとうっすらと甘い味がするのだということを知った。あんたは休日になるといつも歌を謡った。あんたのギターは古く調子外れで歪んだ音を出したが、声は綺麗だった。あんたは曇りガラスのような声をしていて、陽気な歌を謡った。あんたの歌をわたしは好きだと思った。
夜の公園であんたが破片を拾っているのを見つけた。銀色の金属の破片がすべり台の下に幾つも散らばっており、わたしはあんたがそれを拾い集めているのを見つけた。さっきこの場所で子どもが泣いていたんだとあんたはわたしに言った。親に虐められた子どもがわんわん泣いていたんだ。そしてこれはその子どもが落としていった破片さ。拾い集めた破片のうちのひとつをあんたは自分の腕にぐさりと突き刺した。ねえあんた血が出てるよ。わたしがそう言うとあんたは、そりゃあ破片を刺したんだから、血ぐらい出るだろうよ。と、空気の抜けたような間の抜けた顔をして笑った。
なんであんたには破片が刺さってんの、と尋ねた。あんたの部屋の中でだ。調子外れで歪んだ音を出すギターが本棚の側面に立てかけられ壁にはバンドのポスターなどが何枚も貼られていた。なんであんたには破片が刺さってんの。尋ねた時、あんたは裸だった。服を脱いだあんたの身体は細く肋骨や背骨が浮き出て、あらゆる部分に破片が刺さっていた。そりゃあお前、俺は破片がとても好きだからさ。あんたはやっぱり空気の抜けたような間の抜けた顔をして笑った。そして本棚の側面に立てかけたギターを手に取り、曇り硝子のような綺麗な声で以て陽気な歌を謡った。
夕方の空き地であんたが破片を拾っているのを見つけた。背の高い雑草の草むらに銀色の金属の破片が幾つも散らかっており、わたしはあんたがそれを拾い集めているのを見つけた。なあ見ろとここに枯れた花があるだろとあんたはわたしに言った。この花、昨日までは生きて咲いていたんだけどちょうどついさっき枯れてしまったんだ。これはその枯れた花が残していった破片さ。拾い集めた破片のうちのひとつをあんたは自分の腕にぐさりと突き刺した。ねえあんた痛くないの?わたしが尋ねるとあんたは、そりゃあ痛いさ。破片を刺したんだからそりゃあ痛いだろうよ。と、空気の抜けたような間の抜けた顔をして嗤った。そして曇り硝子のような声で陽気な歌を謡った。
ある朝あんたは死んでしまっていた。死んだ原因は破片の刺し過ぎだった。馬鹿な男だなあと思った。あんたが死んだ後の部屋には銀色の金属の破片が幾つも幾つも幾つも、辺りに散らばっておりきらきら光っていた。わたしはそれを黙って拾い集めた。あんたの破片だった。そしてその中でいちばん大きな破片を、わたしは掴んで、わたしの腕にぐさりと深く刺した。赤い血が流れた。すごく痛かったが、あまり痛くはなかった。