ぼくたちの地図

あなたは地図を描いていた。
世界を旅して地図を書いていた。
年に一回町にやって来た。
描きかけの地図を持って毎年やって来た。
あなたの旅の話を聞くのがぼくの楽しみだった。

ある年のあなたは海の話をした。
あなたは海で船乗りの老人と出会い船に乗せてもらった。
老人とあなたはふたりで協力して海岸の形を地図に記していった。
冷たい沖であなたが見かけたクジラは悠然としてとても美しかった。
そんなあなたの旅の話を聞くのがぼくの楽しみだった。

ある年のあなたは森の話をした。
あなたは森で女と出会い小さな小屋で一夜を共にした。
女とあなたはふたりで協力して森の形を地図に記していった。
森の最奥であなたが見掛けた大樹は何千年もの時間を生きておりとても神々しかった。
そんなあなたの旅の話を聞くのがぼくの楽しみだった。

あなたは毎年町にやって来た。
あなたは町に来るたびに描きかけの地図の写しをぼくに一枚くれた。
ぼくはそれがとても嬉しかった。
だけどある年を最後にあなたは町に現れなくなった。
旅先の雪山で命を落としたとずいぶん後に誰かの口から聞いた。

大人になってぼくは旅に出た。
あなたがくれた地図の写しを鞄に入れてぼくは旅に出た。
行く先々で出会ったものを地図に書き込んだ。
あなたの地図にぼくが続きを書いた。
これはぼくたちの地図です。
 

 

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