タマドリ

 タマドリが居ました。タマドリというのは鳥の仲間です。とても小さな身体をしています。森の奥で静かに暮らしています。古木の根元に巣穴を掘ってそこに住んでいます。翼は持っているけれど、とても小さく弱いので、空は飛べません。くちばしや爪も持っているのだけど、やっぱり小さく弱いので、喧嘩も出来ません。なので普段は巣穴の中でじっとしています。朝から晩まですやすや眠って過ごすこともあります。お腹が空いた時にだけ、丸い身体を転がすように歩いて、食べ物を探しに行きます。主な食べ物は地面に落ちた虫の死骸です。

 ある日の昼。タマドリのところにトビがやって来ました。トビは大きな鳥です。立派な翼を持っています。空を飛ぶのがとても上手です。トビは言いました。
「やいタマドリ。お前は不幸な鳥だな。せっかく鳥に生まれたというのに、翼を使って空を飛べないなんて、こんなに哀れな生き物は他に見たことがない。世界を作った神様は、お前のことをよっぽど酷く嫌っていたに違いない。おいタマドリ。お前は不幸な鳥だな」
 トビはそれだけ言い残すと、大きな翼を広げて、空に飛び立ちました。

 ある日の夕方。タマドリのところにクマがやって来ました。クマは乱暴者です。力強い腕と鋭い爪を持った生き物です。クマは言いました。
「やいタマドリ。おれは幸せ者だ。この森の中でいちばん幸せ者だ。何故ならおれはこの森の中でいちばん強いからだ。世界を作った神様は、いちばんの強さをおれに下さったのだ。それに引き換えお前は不幸な奴だな。何故ならお前はてんで弱いからだ。分かっているのかタマドリ。もしもおれがその気になったらお前の身体なんてひとひねりなんだぞ。ああタマドリ。お前は不幸な奴だな」
 クマはそれだけ言い残すと、のっしのっしと歩いて、帰っていきました。

 ある日の夜。タマドリのところにリスがやって来ました。リスは美食家です。どんなものでも食べることが出来ます。リスは言いました。
「ねえタマドリ。僕がどんな時に幸せを感じるか君に教えてあげるよ。僕は美味しいものを食べている時がいちばん幸せなんだ。この森には美味しいものがあちらことらにあるんだ。クルミやドングリ。それから花の蜜。人間が落としていったパンを食べた時はもっとすごかった。世界を作った神さまに心から感謝したくなったよ。だけれどタマドリ、君はどうだろう。君は虫の死骸しか食べられないんだろう。あんなに酷い物しか食べたことがないなんて君は不幸な鳥だね。すごく哀れだと思うよ」
 リスはそれだけ言い残すと、木の幹を駆け上って、去っていきました。

 ある日の朝。タマドリは巣の外に出掛けました。お腹が空いたからです。丸い身体を転がすように歩いて、食べ物を探しました。少し歩いたところに虫の死骸をひとつ見つけました。世界を作った神様にそっと祈ってから、その場で食べてお腹を満たしました。タマドリはとても小さくて弱い鳥です。空を自由に飛べません。喧嘩をしたら負けてしまいます。食べられるのは虫の死骸だけです。けれどタマドリはいつも幸せでした。 タマドリが幸せになるためには、飛ぶことも、喧嘩をすることも、美味しいものを食べることも、必要ないのです。だからタマドリはこの森の中でいちばん幸せでした。

 

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