電車の音はわりと好きだと感じる。何をするにも気が散らない音なので作業BGMに流すこともある。高校時代以降でいちばん多く本を読んだ場所は電車の中だった。最近は毎日電車に乗ったりしないので代わりにお風呂で本を読むようになった。携帯電話の電波が地下鉄にまで届くようになったのはいつからだっただろうか。
むかし学童保育施設で働いていたとき出会った電車好きの男の子のことをよく覚えている。周囲に溶け込むのが得意な子ではなかった。迎えに来る保護者のお婆ちゃんは「この子の面倒を見るのは大変でしょう」という旨のことを僕に対して言った。自由時間には「だだん、だだん」と電車の走る音を口に出しながら教室の中やグラウンドをたったひとりで歩き回っていた。楽しそうにそうしているよう見えることもあれば言葉にできない不満や怒りやもどかしさを燃料にして燃しているふうに見えることもあった。
僕がその施設を辞めたあともその子のことはずっと気になっていたのだけど、辞めてから数年経ってから偶然いちど駅のホームですれ違ったことがあった。電車を降りてきたところで満面の笑みを浮かべていた。