十一月下旬。娘は短期間の間にハイハイやお座りが出来るようになりつかまり立ちまで挑戦しはじめた。少し前まで「寝返りまだかなー」なんて話を妻としていたのに、気づいたらうつ伏せで要ることがデフォルトになり仰向けでいることは珍しくなった。かと思えば今度はうつ伏せよりも座っている時間の方が長くなっている。
めまぐるしい速さで新しいことを習得していく。それと同じだけの速さでいろいろなものを卒業もしていく。親の僕らがその時その時を堪能し切る前に次の段階にステップアップしていく。それを繰り返す。だから娘よりもほんの数ヶ月後に生まれた子を見ても「懐かしいなあ」とか「うちの子にもあんな時期があったなあ」という気持ちが湧き出てくる。
「十年前の自分に『十年後には結婚していて子どもも居るよ』って言ったら信じると思う?」と妻から質問された。「わたしはたぶん信じないと思う」と妻自身は言った。十年前の妻は十八歳だった。
「ちゃんと愛情を向けられる相手が欲しいという思いはあったから信じるかもしれない」と僕は答えた。「でも『10年後死んでるよ』って言われても同じぐらい信じちゃうと思う」十年前の僕は二十二歳だった。まだ妻とは知り合いではなかった。