掌編小説

破片の男

さっきこの場所で親に虐められた子どもが泣いてたんだ。これはその子どもが落としていった破片さ。あんたはそう言うとその破片を自分の腕にぐさりと突き刺した。
掌編小説

塞がる膜

私はゼンマイ仕掛けだ。ゼンマイの穴は私の背中にある。ゼンマイのネジはあなたの右腕だ。私が裸になり背中の穴を向けると、あなたはそこに右腕のネジを突っ込む。
掌編小説

芽生えぬ種の家

例えば僕がいなくなっても、君は決して泣いたりしたらだめだよ
掌編小説

ラピスラズリ 

大好きな彼女の探しものを、私は彼女よりも先に見つけてしまった。私はそれを彼女に隠している。
掌編小説

箱の子ども 

大勢で喋りながら歩いてくる女子高生のグループとすれ違った。彼女たちは笑っていた。私は笑い声が苦手だ。自分が笑われているような気がするからだ。
掌編小説

トカゲの星

先生が言うには、精神病のせいで私は人間の姿をしているから毎日しっかりトカゲになるための薬を飲みトカゲの姿になるまで退院してはいけないということだった。
掌編小説

ぜんぶがぜんぶ私はそんなふうだ

甘いものが食べたいような気がした、それは勘違いだったということに食べてから気付いた。
掌編小説

縛られテミスのⅣ

銃を持ったおれが対峙したのは、イーッとかアーッとか甲高い声で叫ぶような怪人なんかではなく、年端もいかない、痩せた身体をした小さな子どもだった。
掌編小説

砂糖の流砂

薬を飲んで眠ると、その夜は大抵酷い夢を見るのだ。
掌編小説

機械の王国

この暗い部屋の中で、あたしは何年もひとりでいる。今のあたしはどんな姿だろうか。外で暮らすひとびとは今のあたしを見て、今のあたしの生活ぶりを見て、不気味に思うだろうか。それとも怖れるだろうか。
掌編小説

ウラヤマバード

学校をさぼった。ランドセルを背負って家を出たけどあいつらのいる所になんか二度と行きたくなかった。
掌編小説

ウルトラスーパー猫会議

カツオブシの味を知ってしまったボクは、もうカツオブシがなきゃ生きていけない! カツオブシを食べれないボクはなんて不幸なんだ!
掌編小説

紙の魚

切り抜きで出来た魚なんです。僕はね、紙の魚なんです。
掌編小説

ナゴ

ぼくは野良の猫で、だから本当はぼくに名前なんかないのだけれど。ナゴ、という名前で呼ばれることを、ぼくは嬉しいと思うのです。
掌編小説

わーるどえんど・びにーるるーむ

わたしたちはずっとここにいるの。だけど寂しいことは、なにひとつないのよ。あなたひとりさえいれば、わたしは充分ですもの。