掌編小説

ウィスキーの色をした砂漠へ

「わたしねーえ、戦争をしてる国に行こうと思うよう」
掌編小説

青い星の少女

わたしさえ覚悟を決めれば、大好きな彼の右手はすぐにでも元通りになるのに。その身体がとても温かくて、離れたくないので、わたしは泣きたくなる。
掌編小説

音楽室の壁は防音で分厚い

ピアノの下であたしたちは抱き合う。あたしは彼女の名前を呼ぶ。男というものをわたしも怖れている。彼女とは違う理由で。
掌編小説

星屑のニトロ

ニトロの頭は狂ってなんかいない。私はもうそれを知っているけど、ニトロのことが前より怖くなった。
掌編小説

いつかどこかで遠くの星の青

彼女の見た目は人間そっくりだったんだけど実は人間ではなく身体は薄い軽い貝殻みたいなもので出来てて、何か嬉しいことがあるたびにピシッとヒビが入った。
掌編小説

試験管と妖精

ママは妹のことを"私の最高傑作"というふうに称しわたしのことは何かあるたびに"失敗作"だと言った。
掌編小説

赤く光る街

ウラ町では誰もが私を無視する。ウラ町では常にサイレンが鳴り響いているがそんなものを気にするひとなど誰ひとりとしていない。
掌編小説

エンキドゥはつめたいところにいる

彼の腕に抱かれながら、同じ生き物でないことが悲しく、わたしは泣きたくなります。
掌編小説

ファイアボール

もう少しして夜がやってきたなら、燃える隕石がたくさんたくさん降りトーキョウの町はすべてが爛れて消えてなくなる。そうなれば良いなとおれは思っている。
掌編小説

泥に沈んで安らかに

煙草を吸えないきみは、わたしの真似をして白い煙を頭上にふわりと吐いた。わたしはにやにやと笑いきみはけたけたと笑った。死にたいと思った。
掌編小説

廃墟のアルバート

アルバートは古くなった腕や脚や内臓を定期的に交換することでずっと生き続けることができた。交換が必要なのは心臓や記憶もまた例外ではなかった。
掌編小説

祈る歯車

神さまの王国では、戦死した国民は楽園で生まれ変わることが出来るということになっており、それはとても名誉で幸せなことだと言われていた。
掌編小説

くらげの森

くらげは何かの役に立つかもしれない。役に立たないかもしれない。
掌編小説

ウルトラブルー

死んでしまうのは怖いことだと思う。ぼくは死にたくない。
掌編小説

ジムノペティ

コバルトの雪は捨てられた子どもを殺すための毒だ。この町を造った奴は恐らく、捨てた子どもが大人になり、やがて復讐されることを酷く怖れたのだろう。