掌編小説

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あの日のための何もかも

思えばわたしの人生は、ずっとこういう感じだ。できなかったことばかりが幾つも積み重なって、帳尻を合わせも間に合わずに、自信のない、卑屈な大人になった。
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わたしに価値はないかもしれないが

テレビを点けても、大人たちの話に耳を傾けても、美人には価値があって、美人から遠いものほど価値が少ないのだと、異口同音にみんなが言っていた。
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父の遺言

父はいちども目覚めることはなかった。わたしが長く眠りすぎた日、このひとは、わたしが泣いて謝るまで、怒鳴り散らしたというのに。機械のスイッチをこの手で止めてやろうか。そんな衝動にわたしは何度も駆られた。
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待ちびとの島

今日よりも良い明日が来ることはないから、生きて明日を迎えることも嬉しいことではない。生きていることが嬉しいことではないから、死ぬことは悪いことではなく、友だちが死んでも悲しんだりはしない。
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さようなら神さま

あんな目にあったのは何故わたしだったんだろう。理由を知って納得しなければ、あの出来事を過去にすることはきっとできないと思っていた。
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最後のヒト

生まれた理由を反故にしたわたしは、本当にこうして、生きて良いのだろうか?
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わたしの鳥のために

夫がわたしを抱けなくなってからどれだけ経っただろう。わたしの夫は、わたしがわたしのうつくしさを使うために必要な機能をすでに失くしてしまった。
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ありきたりの失恋をしただけ

恋した相手に好きなひとがいた。それは自分ではなかった。失恋というのはそういうものだと思う。だから普通に失恋しただけだ。
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抗う者のピアス

男に抱かれる時わたしは決まってある寄生虫のことを頭に思い浮かべる。この身体は他の誰のものでもない。私だけのものだ。
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雨が降っても花は笑わない

彼女の濡れたワイシャツからは下着の紐や白桃色の肌がうっすらと透けており僕は鉛を飲み込んだような鈍い重さを喉の奥に感じた。
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さよならラムネ菓子

五年前とか十年前と比較しても世の中はたいへん便利になりひとが自殺をするのもずいぶん簡単になった。
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タマゴとハンバーグ。それからレモンのお酒

私たちは決まって毎朝出かける前にその日の夜にすることをひとつ約束する。そのほとんどは小さな約束だ。
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ひとり残らず僕らは病人だ

弟の背中には羽根が生えている。白鳥のように白くて綺麗な羽根だ。一方で彼の骨は普通の人間に比べて非常に脆くて弱く長時間立っていたり長い距離を歩いたりすることが出来ない。
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わたしは代替品

あのひとは彼女に深く心酔していた。もはや信仰といってもいいぐらいに。だから彼女が去っていったあと、あのひとはまるで偶像を彫る僧のように数十年もの歳月を費やし、彼女とまったく同じ姿形の、生きた人形を作り出した。
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依存と愛と薔薇

男は水と引き換えに言葉を要求した。『愛している』とか『幸せだ』とか。そういう言葉を口にするよう私に要求した。それを拒むと水は貰えなかった。
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