掌編小説

ウサギ怪人の話

怪人に助けを求められても大抵は罠だから相手したらいけないっていうのが社会の常識だった。なのに私はウサギ怪人の小さな身体を背負って家へ運んでいた。
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雨垂れのミドリ

私が笑顔や泣き顔を見せると、お母さんは決まって私のことを怒鳴ったり叩いたり髪の毛を引っ張ったり、気まぐれにぎゅっと抱きしめてくれたりとかした。
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笑う雨の日の虫けら

あいつはハエだからいじめられている。ハエは一見普通の人間と区別がつかない見かけをしているが、背中に一対の羽根をもっており、そこだけ違っている。
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奇形の天使がうまれる

やつらはみんなだいたいお母さんやお母さんの旦那と同じぐらいの年代の男でわたしの身体をお金で買おうとしてきた。
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ゴミ捨て場の女王

あの子は女王になった。いつでも捨てられるような粗末なものばかりを身の回りに集めて。
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そのためだったらあたしは何でもする

これが終わったらまたアイツに電話を掛けるつもりだ。そのことを楽しみに思い浮かべながら知らないどうでもいい男の身体に抱かれた。
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どうでもいいやと思った

シスターの話を耳にするまで私は星の夜のことなんてすっかり忘れていて、もうそんな時期がやって来たのかと思った。
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小人たちの住む腕

卒業後のことを考えるとわたしは恐ろしく思った。この保健室に来ることが出来なくなったら、わたしはいったいどこへ行ったら良いっていうんだろう。
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氷の世界のクモたち

ここでしか生きられないということを認めてしまった時、わたしは大人になった気がする。なってしまった気がする。なれたような気がする。
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猫釣り

翌日、はじめて彼の方から私に声を掛けてくれた。舐めて。とだけ言われた。
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最近のプリクラは誰でも可愛く映る

普段のサマンサは金髪のウィッグを被ってなんかいないし化粧もしてはいない。代わりにスーツを着て電車に乗り会社に通っている。
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ウィスキーの色をした砂漠へ

「わたしねーえ、戦争をしてる国に行こうと思うよう」
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青い星の少女

わたしさえ覚悟を決めれば、大好きな彼の右手はすぐにでも元通りになるのに。その身体がとても温かくて、離れたくないので、わたしは泣きたくなる。
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音楽室の壁は防音で分厚い

ピアノの下であたしたちは抱き合う。あたしは彼女の名前を呼ぶ。男というものをわたしも怖れている。彼女とは違う理由で。
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星屑のニトロ

ニトロの頭は狂ってなんかいない。私はもうそれを知っているけど、ニトロのことが前より怖くなった。