掌編小説

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あしたの朝もきちんと起きねばならない

働きたくないよう。と、彼はわたしに甘えた声で言った。彼の職業は死神。主な業務内容はひとを死なせること。明日は月曜日だ。
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どうかどうかあなたはお幸せに

捨てられたわたしはあのひとのことを恨んだ。報いを受けろ、絶対許さないと、毎日毎晩あのひとを呪った。あのひとの不幸だけを願った。
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羽根も持たない可哀想ないきものたちの話

コンビニに並んでいる雑誌の表紙に彼女の姿を見つけた。わたしばかりが上手に変われなかった。
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昨日の羊

どんより暗く大きな雲が近づいてきました。動物たちはみんな避難しました。脚を怪我した一頭の羊と、食欲のない一頭の狼。この二頭だけが草原に残りました。
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明くる朝には跡形を探しに出かける

僕は向日葵に水をあげてるんだ。少年は私の方に目をくれることもなく答えた。向日葵の葉先は水気を失い黄土色をしていた。
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ウサギ怪人の話

怪人に助けを求められても大抵は罠だから相手したらいけないっていうのが社会の常識だった。なのに私はウサギ怪人の小さな身体を背負って家へ運んでいた。
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雨垂れのミドリ

私が笑顔や泣き顔を見せると、お母さんは決まって私のことを怒鳴ったり叩いたり髪の毛を引っ張ったり、気まぐれにぎゅっと抱きしめてくれたりとかした。
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笑う雨の日の虫けら

あいつはハエだからいじめられている。ハエは一見普通の人間と区別がつかない見かけをしているが、背中に一対の羽根をもっており、そこだけ違っている。
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奇形の天使がうまれる

やつらはみんなだいたいお母さんやお母さんの旦那と同じぐらいの年代の男でわたしの身体をお金で買おうとしてきた。
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ゴミ捨て場の女王

あの子は女王になった。いつでも捨てられるような粗末なものばかりを身の回りに集めて。
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そのためだったらあたしは何でもする

これが終わったらまたアイツに電話を掛けるつもりだ。そのことを楽しみに思い浮かべながら知らないどうでもいい男の身体に抱かれた。
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どうでもいいやと思った

シスターの話を耳にするまで私は星の夜のことなんてすっかり忘れていて、もうそんな時期がやって来たのかと思った。
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小人たちの住む腕

卒業後のことを考えるとわたしは恐ろしく思った。この保健室に来ることが出来なくなったら、わたしはいったいどこへ行ったら良いっていうんだろう。
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氷の世界のクモたち

ここでしか生きられないということを認めてしまった時、わたしは大人になった気がする。なってしまった気がする。なれたような気がする。
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猫釣り

翌日、はじめて彼の方から私に声を掛けてくれた。舐めて。とだけ言われた。