掌編小説

翼のある子ども

みんなが私に優しくしてくれるのは翼があるからだ。この翼が完全に消えてしまったら誰も私に見向きもしなくなる。
掌編小説

生きているから逃げ続けなければいけない

こうして逃げ続けることに意味があるんだろうか。明日もどうせ寝不足で、お腹を空かせて逃げまどう時間が、待っているだけだ。
掌編小説

サラリーマンvsエイリアン

死ぬために戦うのではない。生きるために戦うのだ。
掌編小説

海兵服でやってきた

長く持っても秋までは保たないだろうと言われた。妹が助からないと分かってから、私はいちども見舞いに行けていない。
掌編小説

流れ星のエステル

私たち火星で暮らしている子どもは、みんな幼い頃に地球で親に捨てられ、連れてこられた子どもだ。
掌編小説

理由があれば雨はいつでも降る

彼女の足の不自由さというのは、彼女を気遣いたい人達にとっての、とても分かりやすい理由だ。そんな彼女に対して、私は羨ましさを感じる。
掌編小説

海と翠

ある日突然あの子の名字が変わった。朝、出席を取る際、担任が聞きなれない名字を口にし、あの子が返事をした。
掌編小説

私はくじらの夢を見た

自分には才能があると思った。けれど美術の大学に入ると私は凡庸だった。会うひと誰もが自分よりも優れた才能を持っているように感じた。
掌編小説

天使を拾いました

誰かに必要とされていなければ不安で仕方なかった。他人から欲しがられるためであればどんなことでもした。だから私は昨日の晩も見知らぬベッドで眠った。
掌編小説

忘れてしまう町にて

私は泣かなかったが、彼が死んでしまったのは私のせいだと思った。きっと私がここに来るより前のことをすべて忘れたせいだ。
掌編小説

寒い場所からあなたは来たのだという

娘はこの砂漠を出て都会で暮らしたいと答えた。若い時間をこの砂漠の中で終えてしまうのは辛いと、消え入るような力のない声で言った。
掌編小説

わたしの硝子は砕けない

自分の家族が口も利きたくないぐらい酷い家族なら良かったのにとわたしは時々思う。
掌編小説

アオとムラサキ

それから後もたくさんの男の子が私のもとを訪れましたが、私の身体は今も変わらず動かぬままなのです。
掌編小説

この森でいちばん愚かな少女の話

信じたいものを彼女は信じるのだ。本当のことではなく、本当だったら良いなということばかりをを、彼女は信じるのだ。
掌編小説

ぱぴ子について

ぱぴ子は代わりの女の子だ。他でもないあなたの代わりなのだ。居なくなってしまった、手の届かない遠くへ行ってしまった、あなたの代わりなのだ。