掌編小説

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風船が降る町

風船が降りはじめる以前からこの町は行き詰っていたのだ。それを忘れてはいけない。こうなる前から未来なんかなかったじゃないか。
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絶望的に私は幸せだ

誰かに抱かれて眠った記憶というのが、私の中にはないのだ。人肌の温かさに包まれて眠ることが、私にとって唯一の憧れだった。
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フツウの女の子

あの子は私の欲しいものを全部持っている。だけど私は彼女を妬めない。背中が見えないほど遠い相手には、嫉妬することだって出来やしないのだ。
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バニラはシロクマだった

私はきっと、彼から大切にされることはないだろうと思う。忘れられずにいるなら、大切にされなくても私は構わない。
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「あの日のあたしは泣いていた」彼女は笑ってそう言った

ママの言いつけを破ったことはなかった。大人は子どもより正しいことを言うと、疑いもせずに信じてきたからだ。
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身体を売る機械

ネリマは一度も地球の土を踏んだことがない。地球はとても良い場所だと、仲間のあいだで噂されている。
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愛おしいから骨さえ残らない

わたしのママは貝なのだ。だからわたしもそのうち貝になる。娘のわたしもいつかは貝になる。
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私が役に立たない日の出来事

今日。本当は彼と会えるはずだった。だけど会えなかった。起床してすぐに生理がやって来た。
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モデルマシーン

その時には、わたしと同じ工場で、わたしと同じ姿形に作られたマネキンがこの店を訪れ、わたしの代りを務める。まるで何事も起こらなかったみたいに。
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虚しさの木

普通に生きてるだけなのに、どうしてこんなに虚しくなるのだろう。わたしは何度も考えた。考えるたびに虚しさは募って、新たな洞が生まれた。
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魔法の小箱のこと

木で出来た小箱がある。私はそれを手のひらに乗せてみんなに見せびらかした。最初に開けたひとの願いをひとつ叶えてくれる魔法の箱だと言った。
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タマドリ

やいタマドリ。おれは幸せ者だ。何故ならおれはこの森の中でいちばん強いからだ。それに引き換えお前は不幸な奴だな。何故ならお前はてんで弱いからだ。
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この人生に意味などあるのだろうか

彼のようになりたいと密かに憧れた。大人になった彼は僕のことなんて覚えていないだろう。
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ぼくたちの地図

あなたは毎年町にやって来た。あなたは町に来るたびに描きかけの地図の写しをぼくに一枚くれた。
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フクロウの話

ウグイスが僕のために餌を獲りに出かけた。ウグイスは馬鹿な鳥なので僕のことをウグイスのヒナだと勘違いして僕を育てている。