「 掌編小説 」一覧

踏まれて死んだ小さな蛾のように

踏まれて死んだ小さな蛾のように

わたしはもう母の顔色を伺いながら寝ても覚めても震えていた弱くて小さな子どもではないのだということを確かめなければいけない。

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線香花火はかならず寂しく終わる

線香花火はかならず寂しく終わる

わたしたちはお互いの名前も知らなければ連絡先も知らない。ただ毎年いちどだけこの場所で線香花火をして過ごすということだけが、もう五年ものあいだずっと続いている。

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オッサンとワンワン

オッサンとワンワン

コバルトブルーの雨には強力な毒がある。どうしてそんな物騒が雨が降るようになったのかというと、兵器の工場で馬鹿な人間が事故を起こしたからだ。

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スプリンターマツモト

スプリンターマツモト

僕なんかと一緒に居ることで楽しそうな顔をしてくれるひとがいるのだ。その事実が僕には、何より嬉しかった。

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可愛くなりたかった

可愛くなりたかった

自分の容姿への自信は他者からの声によっていとも簡単に二転三転した。可愛いと言われ続ければ自分が絶世の美女であるかのように錯覚することが出来た。

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鬱がやってきた

鬱がやってきた

ある朝。目を覚ますと世界中の物が重くなっていた。箸や皿も重たい。テレビのリモコンや新聞紙も重たい。

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神と和解するまで

神と和解するまで

父は敬虔な神父としてみんなに知られていたけど、その一方で、隣町の賭博場で博打に溺れる男という裏の顔があったのだというのだ。

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彼岸花の国

彼岸花の国

彼女の母親は、焼かれた夫を弔い終えた後、まだ幼かった彼女ひとりを小舟に乗せて、河を隔てたこちら側に逃した。

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夏のジェード

夏のジェード

パパにとってのわたしの可能性は二通りしかなかった。期待通りの大切な娘。期待外れの不要な娘。そのどちらかだった。

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けむりの夜

けむりの夜

この男はわたしにとって何より有害だというのに。いつの間にか離れることが出来なくなっていた。ちょうど煙草をやめられない身体になっていたのと同じように。

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ずっと眠っていたかった

ずっと眠っていたかった

私の彼は長い眠りについた。あれからずいぶん時間が過ぎてしまった。彼の容姿は当時と比べて少しも変わらない。

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風船が降る町

風船が降る町

風船が降りはじめる以前からこの町は行き詰っていたのだ。それを忘れてはいけない。こうなる前から未来なんかなかったじゃないか。

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絶望的に私は幸せだ

絶望的に私は幸せだ

誰かに抱かれて眠った記憶というのが、私の中にはないのだ。人肌の温かさに包まれて眠ることが、私にとって唯一の憧れだった。

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