掌編小説 拾われなかった小さな仔猫 十代だった当時のわたしは生まれ育った土地から逃げてきたばかりでお金も仕事も住所も持たず何の価値もない小娘でしかなかった。だがあのひとはそんなわたしをびっくりするほど高い価格で買った。 2020.12.19 掌編小説
掌編小説 プリズムの家 私の家は様々なひとを招き入れる場所だ。だから家具や調度品は誰の目にも好ましく映るものだけが並んでいる。たとえ私が良いと思ったものでも、好き嫌いが分かれそうなものであれば、家の中からひとりでに消えてしまうのだった。 2020.11.18 掌編小説
掌編小説 小人のために踊る夜 彼のピアスに前歯を当てながらそっと囁いた。あたしたちのこと彼女にバレちゃったよ、と。次の瞬間上半身を起こしてこちらを見た彼の顔からは血の気が引いていた。それを見たあたしは満足して、嘘だよ、と笑った。 2020.06.17 掌編小説
掌編小説 今日のわたしの死 先生はわたしにとって初恋の相手だった。授業の時は気づかなかったが傍で喋るとミントのような涼しい香りがした。好んで吸っている海外製の煙草の匂いなのだと小声で教えてくれた。 2020.05.18 掌編小説
掌編小説 自由を鳴らす石 ここ半年ほどはずっと不満だった。白い塗り絵を目の前にして自分の好きな色を塗ることを許されず「ここはこういうふうに塗りなさい」と言われているような不自由さを感じる。 2019.12.01 掌編小説